シン・ジャパニーズ・ペインティング
革新の日本画 横山大観、杉山寧から現代の作家まで
Shin Japanese Painting: Revolutionary Nihonga
2023年7月15日(土)− 12月3日(日)
ポーラ美術館/ 箱根/ 神奈川
2023.7.15. sat. - 12.3 sun.
Pola Museum of Art, Hakone, Kanagawa, Japan
https://www.polamuseum.or.jp/sp/shinjapanesepainting/
明治政府のお雇い外国人として来日していたアーネスト・フェノロサ(1853-1908)は、当時、日本国内で目にした絵画を総じて “Japanese Painting”と呼び、この英語を日本人通訳が「日本画」と翻訳したことから、明治以後に「日本画」という概念が社会的に定着していったと言われています。
「日本画」は日本の伝統的な絵画と西洋画の接触により、新しい表現形式として確立されましたが、日本という近代国家の形成期における文化的混沌の中で画家たちは、近代とは、西洋とは、国家とは何かという不断の問いと向き合うことを余儀なくされました。第二次世界大戦後は、画壇において日本画滅亡論が唱えられましたが、近代日本画を超克し「新しい日本絵画の創造」を目指した現代日本画の担い手たちの活躍によって、「日本画」は新たな段階へと進みました。
グローバリズムが加速し、西洋と東洋という二分化がもはや意味をなさず、主題や形式、画材などが多様化する21世紀のアートシーンにおいて、現在の「日本画」にはいかなる可能性が秘められているのでしょうか。本展覧会は、近代の「日本画」を牽引した明治、大正、昭和前期の画家たちや、杉山寧をはじめとする戦後の日本画家たちの表現方法、そして現在の「日本画」とこれからの日本の絵画を追究する多様な作家たちの実践の数々にあらためて注目し、その真髄に迫るものです。
While visiting Japan as a foreign advisor hired by the Meiji government, the art historian Ernest Fenollosa (1853–1908) referred to all of the paintings he came across as “Japanese paintings.” This term was translated by a Japanese interpreter as Nihonga (Japanese pictures), which, it has been suggested, subsequently led the Nihonga concept to take root in Japanese society.
In other words, after coming into contact with Western-style painting, traditional Japanese painting became established as a new form of expression known as Nihonga. As the genre emerged during a period of cultural chaos as Japan was formed a modern state, Nihonga painters were inevitably dogged with questions about what it meant to be “modern,” “Western,” and a “nation.” Following the Second World War, Nihonga was in some quarters declared dead, but the work of contemporary Nihonga painters, who strove to create a new form of Japanese painting that would transcend modern Nihonga led to a new phase in the genre’s history.
What is the potential for present-day Nihonga in this age of accelerated globalization, which has rendered meaningless the distinction between East and West, and the 21st-century art scene, which has grown increasingly diverse in terms of subject, form, and material? In this exhibition, we reexamine leading Nihonga figures of the Meiji, Taisho, and early Showa eras, the expressive methods of Yasushi Sugiyama and other postwar Nihonga painters, and the diverse practices of artists who are currently exploring the essence of the Japanese pictures of today and tomorrow.
生々流々
8月18日水ようび 朝ごはんパンと野さい
8月19日木よう日 朝 パンやさい ひる
8月20日金よう日ようび 朝 月土よう土よう19
朝 6時33分34分 パンとやさい ひる 肉やさいかぼちゃ よる なつとう
祖母の周囲に、彼女の直筆のメモが書かれた紙片を見つけるようになった。
メモ用紙、卓上カレンダーの裏、封筒の端っこ、トイレットペーパーの芯。
あまりにも紙を探し求める祖母に1冊のノートを渡すと、
祖母は食卓に座るたびにそこにメモを取るようになった。
転んで腰を痛めた祖母は、
じわりじわりと出来ていたことが出来なくなっていった。
スーパーに買い物に行くこと、料理を作ること、テレビを見ること、
ラジオをつけること、電話をかけること。
新型コロナウイルスの流行も重なって、
よく祖母の家に顔を出していたご近所さんと会話をすることも無くなってしまった。
朝昼夜の認識が曖昧になり、カレンダーも読めなくなった祖母は、
食事をするたびに、今日が何日で何曜日なのかを私に聞いてきた。
携帯を見て教えてあげると、祖母はそれをその時に食べたものなどと一緒にノートに記した。
何度も以前のメモを確認して、場合によっては同じ内容を繰り返し書き記していたのは、
流れていく時間の中に浮かぶ泡のような今を、
あるいは自分自身という存在ををどうにかして掴まえようとしていたのかもしれない。
「最近どう?」と尋ねると「夢の中が楽しくって幸せなのよ」と答える祖母は、もうメモを残さない。
今に過去も夢も交ざりあう中で、彼女は日々自由な漂流を楽しんでいる。
2023年6月 半澤友美
生々流々
Live Each Day
2023
楮、印刷物
paper mulberry, printed material
56× 4140cm
「シン・ジャパニーズ・ペインティング」(ポーラ美術館、神奈川、2023年)のために、横山大観の《生々流転》をなぞらえて制作した作品。和紙の原料である、楮を用いて全長約40m(《生々流転》とほぼ同サイズ)制作した樹皮紙には、認知症になった祖母のメモが複雑に交錯して入れ込まれている。見え隠れながら紙の中を漂い流れていくメモにより、日々を掴もうとしながら毎日を過ごす一人の人間の姿を捉えようとする本作は、横山大観が"水"の一生を描いた《生々流転》の半澤なりの現代版ともいえる。作品のそばにはテキストも展示した。
Tomomi Hanzawa created this 40-meter-long piece of handmade washi using kozo (paper mulberry), and included a note written by the artist's grandmother. The work is a modern version of Yokoyama Taikan's "Metempsychosis", a large-scale work depicting the life of "water".